世に「欧風カレー」というものを広めた元祖は神田神保町のカレー店『ボンディ』と言われる。ブラウンソースに牛肉、豚肉、野菜、果物とスパイスで味のバランスを整え、バター、生クリームと牛乳でコクの深みとまろやかさ、甘みを引き出したボンディのカレーは万人に愛され、多くの欧風カレー派生店を誕生させた。これに対し、同じ欧風カレーを銘打ちつつ、フォンドボーをベースとして36種のスパイスを調味した本格カレーで「日本一」の呼び声も高いのが荻窪の『トマト』だ。
なぜ『トマト』は日本一と言われるのか?

トマトは荻窪駅の南口か西口から歩いて5分ほど。眼の前に都立荻窪高校があり周囲はマンションが立ち並ぶ住宅街で、こんなところに名店が!? という装い。
この日は平日の12時過ぎ。行列ができていて前に10人ほど。ほどなくお店のおかみさんが出てきて、ここで本日は終了しますと告げられた。あっぶないギリギリ。なんでも昼の部は20人くらいしか食べられないらしい。
ここでひとつ疑問が出てくる。トマトのオープンは11時30分。12時過ぎで10人くらいの並びがあるということは、この前に10人が入店している計算。少なすぎる……。カレーなんてサッとよそってパクパク食べたらすぐごちそうさまでしょう? 回転率もはやいだろうとふんでいたのだけど、どうもそういうことではないのだこのお店は。
13時をまわった頃合いでやっと入店できた。

お店に入って、疑問が氷解していく。クラシックが静かに流れる落ち着いた店内はよくこなれた喫茶店の趣き。おかみさんはお客さんひとりひとりに対して丁寧に接客している。カレーもどうやらよいっとよそってハイおまちどう! ではないらしい。店主の姿は見えず掛け声しか聞こえない。否が応でも期待しちゃいますよねそりゃ。時間をかけてお客さんを熟成するお店なのだ。

そして熟成されたカレーのメニューがこちら……。お値段が一流ホテル並(笑)。シチューもすこぶる美味しいのでしょうね。デザートや飲み物も気になっちゃいます、私。
注文は「和牛ビーフジャワカレー」に「チーズ入り」トッピング。本当は「季節の野菜入り」をお願いしたかったんだけれど、こちらは本日売り切れとのこと。このお店のすべてを堪能するにははやく来店して「ファーストロット」を狙うしかない、ということなのか。
お水が運ばれ薬味が置かれ、やがて厳かに本日ラストのカレーが到着。この時点で1時間が経過している。とても並び10人のカレー店とは思えないスローリィな時が流れていくこのゆったり感。お急ぎの方にはまったく向いてない。

ライスの上にはチーズとレーズン。ポットにたっぷりのカレーと分厚いチーズ。

はひはひ……やっと、やっと食べられる……。

んん……ンッまあああぁぁああい。
まず驚くのが味の濃さ。濃さというか、強さ。ドンと来る洪水のような旨味が奔流となって押し寄せてくる。正直、ちょっと強すぎる。バランスは酸味が立っている。だいぶスパイシーに仕上がっているのは「ジャワカレー」だからなのかどうなのかは名物の「タンカレー」を試してみないことにはわからないのだろう。このためチーズがうまく強打を和らげる役割を果たしてくれてちょうどいい塩梅だった。うーん、チーズ入りはマストなのだろうか。
カレー本体の美味しさもさることながら、眼を見張るべきはキューブカットされたビーフ。しっかり形状を残しつつ口の中で柔らかくとけていくこの感触はたいへんおたかいおにくですね!? そんなビーフがごろごろと入っていて、味変の役割を担っている。これは確かに値段相応と思わざるを得ない。
薬味のピクルスも味の強さが個性的で、お皿の上はさながら味のダンスホールで大舞踏会といった感じ。強者と強者がくるくると入れ代わり立ち代わり円舞していく目まぐるしさがある。
なんというか、思っていた欧風カレーとはちょっと違ったなあと思ってしまうのは、やはり「ジャワ」だからなのか!? 大変おいしゅうございました。気軽にリピートできないお値段だけど、次は「タンカレー」を食べてみたい。



